お悩み解決事例:加害者の保険会社から提示されていた約840万円の賠償金額が2500万円で和解できた
概要
概要 | 交通事故後、加害者の保険会社から提示されていた約840万円の賠償金額が、裁判を提起することにより、最終的には2500万円で裁判上和解ができたケース。 |
ご依頼者 | 静岡県西部地域にお住いの40代の男性 |
特徴 | 御依頼者が、交通事故により高次機能障がい(9級10号の神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの)の後遺症を負ったケースになります。 |
解決までの流れ
1. 事案の概要
御依頼者は、交通事故により高次機能障がいの後遺症を負いました。その後遺症の等級は、前述した9級10号になります。
御依頼者のお仕事は自営業で、工業デザインのお仕事を一人で行っていますが、株式会社を設立し、その唯一の株主であり且つ代表者という形式をとっていました。
交通事故により、御依頼者は前述した後遺症を負いましたが、面談をしている限り、その話の中で後遺症を感じさせる具体的な場面はありませんでした。またその後複数回行った打ち合わせやメールでのやり取りにおいても、前述した後遺症による障がいを特段感じることができませんでした。
このような状況であったことも影響してか、加害者の保険会社から提示された賠償金額は、後遺症の等級からすると、840万円という低額なものでした。
2. ご依頼
御依頼者は、そもそも保険会社から提示された賠償額が適正な金額であるのか、自分には判断できないので、その点を弁護士に検討をしてもらいたい、また低額な提示であると判断した場合には、裁判をして欲しいという御意向でした。
相手方の保険会社と裁判前に交渉したのですが、やはり提示される金額が、前述した840万円よりも増額されたとはいえ、依然として低額であると判断しました。そこで訴訟を提起し、裁判の中で適正な金額を主張し、裁判所に判断をしてもらうことを選択しました。
前述した経緯を御依頼者に説明し、正式に裁判手続を行うことの依頼を受けました。
3. 裁判手続きについて
加害者側の代理人(実質加害者が契約している保険会社から依頼を受けた弁護士になります)からは、御依頼者の現状の能力を考えれば、9級10号の労働能力の喪失(35パーセントの喪失率になります)までを認めるのは相当ではなく、12級の14パーセント程度の労働能力の喪失と考えるのが相当であるという意見が出されました。
また事故当時の御依頼者の年収が、申告書からすると極めて低い金額で記載されていることから、加害者側から、この低い年収を基準にして、賠償額を計算すべきであるという意見も出されました。
裁判上の大きな争点は、(1)御依頼者の後遺症の程度をどのように考えるべきか、(2)賠償額の計算の基礎となる御依頼者の年収をどのように考えるべきかという、この2点に絞られました。
まず前記(1)の争点については、実は私自身も、御依頼者を以前から知っていたこともあり、事故後の相談や面談では、以前と変わらない様子であったので、後遺症が具体的に仕事や日常生活で何か影響を及ぼすことがあるのかと思ってしまうこともありました。また以前と同様に工業デザインの仕事も支障なく行っていると御依頼者がお話をされていましたので、後遺症の程度について、こちらの主張を裁判所が認めてくれるのか、不安を感じたのも事実でした。
しかしご本人ではなく、御依頼者の妻から日常生活の様子を聞いたところ、やはり高次機能障がいの影響が出ていることが十分に理解できました。一見すると、御依頼者の様子は前と変わらないように思えたのですが、御依頼者の妻からのお話では、「少し前に使用していた物を何処に置いたのか忘れてしまう。」、「依頼を受けた仕事をすっかりと忘れてしまい、納期が過ぎてから指摘されて慌てて仕事に取り掛かることがある。」、「仕事に必要な資料を選別することが困難なことがある。」、「引っ越しをした自宅近所の道が全く覚えられない。」、「自分が気に入らないことがあると、すごく短気になり、癇癪を起すことがある。」、「また工業デザインの仕事についても、デザインに費やす時間が以前に比べて非常に短くなり、根気がなくなった。」などの事故の前後において、本人の性格や仕事に対する取組み等に大きな変化が生じていることが、御依頼者の妻の話から良く理解ができました。
実際にはもっと多くの事故後の変化について、事情を詳しく聞き、それを裁判所に書面で主張をしていきました。
また前記(2)の争点については、所得の申告をする場合、代表者である御依頼者の年収が、極めて低額に申告されることは良くあることで、例えば、自宅で使用されるものも経費等で処理をされることも珍しくありません。これらの経費処理により、申告書の形式上は、御依頼者の収入が極めて低い内容になっていました。
しかしこの点についても、決算書の内容を明らかにすることや、またデザインの仕事が今後取引先との関係で、拡大し、売り上げが伸びる可能性が極めて高いことを、取引先の関係者の協力を得て、それを書面化することで、裁判所に証拠として提出をしていきました。
4. 結果
裁判所は、最終的に御依頼者の労働能力の喪失を9級10号の35パーセントを前提に損害額を計算してくれ、また基礎となる年収についても、申告書の金額(申告書上は、年収が100万円未満になっています)ではなく、420万円程度を基礎にして賠償額を計算をし、トータルで2500万円の賠償額で和解をすることを双方に勧告しました。
加害者側の代理人も裁判所から和解案が出たことで、この和解案に了解してくれ、また御依頼者自身も、当初提示された金額から大分賠償額が上がったことで、前記裁判所の和解案に納得をしてくれました。
本件は、判決ではありませんが、裁判所の和解案に基づき裁判上和解により解決ができたケースになります。
5. 担当弁護士からのコメント
本件では、前述したような大きな争点は、二つありました。高次機能障がいについては、その程度にもよりますが、一見すると、どのような後遺症を負ったのか、その後遺症が日常生活でどのような影響を及ぼしているのか、明らかに分からないケースが散見されます。また治療時のカルテなどを見ても、具体的にどのような不便さが後遺症により強いられるのか、明らかにならないケースもあります。重度の高次機能障がいであれば、一見してその影響は外見からも明らかであると思いますが、9級10号のレベルの場合には、前述したような外観からは一見すると明らかでない後遺症の障がいがあります。やはり日常生活をともにされている家族から詳しく事情を聞きとったり、またご家族自身に、継続的に日常生活における具体的な支障を確認してもらったりすることが必要であることを実感させられたケースでした。
またサラリーマンではなく、個人経営者の場合、その実際の所得が明らかにならない場合は珍しくありません。節税のため、経費等の工夫をして、実際の所得を低くして申告をするような場合があるからです。このような場合、申告書の内容を詳らかにすることで、実質的な所得が明らかになることもあります。場合によっては、税理士の先生などと相談をして、この点を明らかにする必要があります。また本件では更に、取引先との仕事が順調に推移し、今後売り上げの拡大が見込める状況がありました。その点について、積極的に取引先の担当者が、数字を開示してくれて、今後の売上予想について、具体的な情報開示をしてくれました。きっと御依頼者と取引先との関係が良好であったため、このような協力をしていただけたものと思っています。
交通事故の損害賠償については、弁護士が加害者側の保険会社と交渉をすれば、それだけでかなりの確率で賠償額の提示が上がることは事実です。しかし単に交渉で終わらせないで、裁判をすることでさらなる適正な賠償額に至ることも多いことも事実です。裁判をすれば、時間がかかることもありますが、納得という問題からすれば、時には積極的に裁判をして、適正な賠償額を裁判所に判断してもらうことを検討した方が良いと思われるケースは少なくありません。
加害者の保険会社が提示する賠償額が適正なものであるのか、また裁判をした場合には、どのような結果が見込まれるのか、そのためにはどのような手続きを進めれば良いのか、その方向性や重点になどについて、詳しくは当事務所弁護士にご相談ください。