お悩み解決事例:精管切断の手術を受けたが医療機関のミスがあり650万円の賠償金が認められた
概要
ご依頼者 | 40代男性 |
特徴 | 依頼者は、パイプカット術(本件手術と省略します)を受けましたが、本件手術において、医療機関のミスがあり、片方の精巣が壊死したため、その摘出を余儀なくされたケース。 |
解決までの流れ
1. 事案の概要
御依頼者は、ご夫妻で相談をされた上で、前述したパイプカット術を受けました。しかしその手術において、医療機関のミスにより、片方の精巣を壊死させるという障がいを負い、その精巣を摘出するに至りました。
2. ご依頼
当初、調停を申立て、医療機関と交渉を行いましたが、納得できる提案を頂けなかったため、正式に裁判をして、医療機関の責任を追及することとしました。
3. 裁判手続きについて
まず裁判をする場合、御依頼者の方に生じた後遺症の程度が問題になります。本件では、片方の精巣を摘出する結果となりましたが、それにより生殖能力に大きな影響が生じることがないこと、また御依頼者は既に子どもさんが数名いて、今後子どもを産む予定は特にないこと(御依頼者の妻の年齢を考えても)などから、損害額について被告側から強く争われました。
また被告側からは、本件手術中に精巣が壊死したのは、精巣捻転が突然起きたためであり、かかる精巣捻転は予測不可能な事態であったため、医療機関には過失はないという点も争われました。
本件訴訟では、医師の専門委員が選任され、その医師から話を聞くため、医療機関に裁判官や双方の代理人が出張したこともありました。専門委員というのは、簡単に言えば、裁判官などに専門的である医学知識などをアドバイスする立場にある人を言います。医療訴訟では、問題となっている人体の箇所の構造、医学用語、医療文献の意味など様々な点において、医学に素人である裁判官や弁護士には、理解できないことが多くあります。その点について、専門委員の医師に分かりやすく説明をしてもらい、裁判官を始めとする当事者が問題点を正確に理解できるようにしてもらうための制度です。
本来、専門委員は、問題となっている本件手術において、医療機関にミスがあったのか否かなどの点については、言及しないことになっています。あくまでその点についての判断は裁判官が行うものであり、専門委員は、裁判官がそのような判断をするに資する点について、アドバイスを行うというのが建前になっています。
しかし本件訴訟においては、前述した専門委員の医師に事情を伺った際、やはり医師も専門的な立場から意見を述べるため、本件手術に問題があったのか、それともなかったのか、その点に言及しないで、口を閉ざすことに終始するのは、きっとその専門委員の先生にとっては、難しかったのかもしれません。専門委員の先生が、説明をしていく中で、徐々に本件手術の問題点に言及され、事実上医療機関のミスがあったと十分に思わせる発言になったため、原告である御依頼者としては、非常に助かりました。裁判官も事実上、この専門委員の医師の話から、医療機関のミスがあったと判断したと考えています。
4. 結果
その後の裁判では、医療機関のミスを前提に賠償額について、双方で主張が交わされました。その上で裁判所から650万円の賠償額の和解案の提示がなされました。
御依頼者は、調停段階よりも賠償額の提示額が大幅に上がったことから前記裁判所の和解案を受け入れることを承諾されました。また被告の医療機関としても、既に専門委員から過失があったと指摘されていることから、賠償額についても、裁判所の提案を受け入れました。
そこで前記650万円を被告の医療機関が、御依頼者に支払うことで、裁判上の和解が成立しました。
5. 担当弁護士からのコメント
上記裁判では、医師の専門委員が、医療機関にミスがあったと裁判所が判断するような指摘をしたため、本件ではその後早期に解決に至りました。
しかし逆に医師の専門委員が、医療機関にミスがないというような指摘をするような場合は、その後の訴訟に大きな影響を及ぼすことになります。従って専門委員の先生を訴訟で参加してもらうか否かについては、医療訴訟の場合、慎重に検討すべき問題であると思います。
医療機関の治療、手術などにミスがあったのではないかと思われたり、またその点について、医療機関に説明を求めても、納得ができるような説明をしてくれないなど、医療機関の対応に不満を持たれている方も多いと思います。それが医療機関のミスと言えるのか、またその点について医療機関に責任追及ができるのか、疑問に思われる方は、どのような手続きを進めれば良いのか、その方向性や重点になどについて、詳しくは当事務所弁護士にご相談下さい。